主要ブラウザ詳細調査レポート 2025年6月
世界のブラウザ市場シェアと概況
2025年6月現在、世界のブラウザ市場はGoogleのChromeが66.19%という圧倒的なシェアを維持し、約37億人のユーザーを抱えています。次いでAppleのSafariが17.25%(約10億人)、MicrosoftのEdgeが5.2%(約2.92億人)、Firefoxが2.55%(約1.42億人)となっています。デスクトップ市場ではEdgeが13.06%まで成長し、モバイル市場ではSafariが23.80%を占めるなど、プラットフォームによって勢力図が異なることが特徴的です。
1. Google Chrome
基本情報と特徴
- 最新バージョン: Chrome 137(2025年5月時点)
- レンダリングエンジン: Blink(Chromiumベース)
- 主要機能: Gemini AI統合によるDevTools支援、自動ワークスペース接続、Privacy Sandbox API、Googleアカウントによるクロスデバイス同期
性能
- 速度: Speedometer 3.0ベンチマークで22.5(Windows)、29.2(macOS)を記録し、主要ブラウザで最速
- メモリ使用量: 6タブで1.4GB、60タブで3.7GBと高い消費量(「RAM食い」として悪名高い)
- セキュリティ: 定期的な自動更新、サイト分離技術、AI搭載の詐欺検出機能
強みと弱み
強み:
- 最大の拡張機能エコシステム(Chrome Web Store)
- Googleサービスとの優れた統合
- 最速のJavaScript実行速度
- Gemini AIによる高度な開発者ツール
弱み:
- 高いメモリ消費
- プライバシー保護が弱い(Googleの広告ビジネスモデルのため)
- カスタマイズオプションが限定的
- Manifest V3への移行により広告ブロッカーに影響
使用者の特徴
- 18-34歳が55%を占める
- 男性61.67%、女性38.33%
- 南米で特に高いシェア(78.9%)
- 開発者とGoogleエコシステムユーザーに人気
最新アップデート(2024-2025)
- Gemini AI統合によるDevTools強化
- Privacy Sandboxの段階的展開(サードパーティCookie代替)
- IP保護機能(2025年第3四半期予定)
- 複数の重要なセキュリティ脆弱性修正
プライバシー保護機能
- トラッキング保護(2024年に1%のユーザーで試験運用)
- Privacy Sandbox(Topics API、Protected Audience)
- セーフブラウジング(オンデバイスLLMによるAI詐欺検出)
- シークレットモード(履歴は保存されないがトラッカーブロックは限定的)
開発者向け機能
- Gemini AI統合:CSS修正、パフォーマンス分析、デバッグ支援
- ワークスペース統合:ソースファイルのライブ編集
- パフォーマンスパネル:Core Web Vitalsデータ、Lighthouse統合
- アクセシビリティ:フルページアクセシビリティツリービュー
2. Microsoft Edge
基本情報と特徴
- 最新バージョン: Edge 137.0.3296.58
- レンダリングエンジン: Blink(2020年よりChromiumベース)
- 主要機能: 垂直タブ、コレクション機能、Edge Secure Network(VPN)、Microsoft 365統合、Copilot統合
性能
- 速度: WebXPRT 3で76ポイント(Chromeの73を上回る)
- メモリ使用量: 6タブで665MB、60タブで2.9GB(Chromeより大幅に効率的)
- バッテリー効率: Chromeより9%省電力
強みと弱み
強み:
- 優れたメモリ管理とバッテリー効率
- 3段階のトラッキング防止システム
- 垂直タブによる優れたタブ管理
- Microsoft エコシステムとの統合
- 内蔵VPNとセキュリティ機能
弱み:
- Chromeより小さい拡張機能ライブラリ
- 開発者ツールの成熟度が低い
- 新しいWeb標準の採用が遅い
- 2025年に安定性の問題が報告されている
使用者の特徴
- 企業での採用が増加
- Windowsビジネス環境で強い
- プライバシーを重視するChromeからの移行ユーザー
- デスクトップ市場で13.77%、モバイル市場では0.47%
最新アップデート(2024-2025)
- Microsoft 365 Copilot深い統合
- 教育機関・中小企業向け無料Webコンテンツフィルタリング
- PDF翻訳機能内蔵
- SmartScreenの改善とBYODシナリオ向けデータ保護強化
プライバシー保護機能
- 3段階のトラッキング防止(基本、バランス、厳格)
- Microsoft Defender SmartScreen
- InPrivateモード(強化されたトラッカーブロック)
- プライバシーダッシュボード
- Edge Secure Network(内蔵VPN)
開発者向け機能
- 30以上のツール(要素、コンソール、ソース、ネットワーク、パフォーマンス)
- 3Dビュー:DOMレイヤーとz-indexのデバッグ
- アプリケーションツール:ペイメントハンドラーなどの検査
- Chrome Web Store拡張機能との互換性
3. Mozilla Firefox
基本情報と特徴
- 最新バージョン: Firefox 139(2025年6月)
- レンダリングエンジン: Gecko(独自エンジン、C++、JavaScript、Rust)
- 組織: Mozilla Foundation(非営利団体)
- ミッション: オープンでアクセス可能なインターネットの維持
性能
- 速度: Speedometer 3.0で一般的に3位(ChromeとEdgeに次ぐ)
- メモリ使用量: 約1.5GB(Chrome 2.1GBより効率的)
- バッテリー効率: Chromeより省電力、特にノートPCで顕著
強みと弱み
強み:
- オフライン翻訳(AIによるローカル翻訳)
- マルチアカウントコンテナ(異なるブラウジングコンテキストの分離)
- 高度なカスタマイズ性(about:config、userChrome.css)
- 優れたプライバシー保護機能
- Androidでも拡張機能をサポート(モバイルブラウザで唯一)
弱み:
- Webサイトの互換性問題が増加
- Chromium優位の環境での苦戦
- 起動速度が遅い
- 市場シェアの継続的な低下(2.57%)
使用者の特徴
- グローバル市場シェア:2.57%(約1.42-2.1億人)
- デスクトップ市場シェア:6.45%
- 25-34歳が最も多い(24.8%)
- プライバシー重視ユーザー(77%がオンラインプライバシーを懸念)
- Linux ユーザーに人気
最新アップデート(2024-2025)
- Firefox 139:カスタム壁紙、リンクプレビュー機能
- AI チャットボットアクセスの段階的展開
- 中国語、日本語、韓国語、ロシア語の翻訳サポート追加
- Pocket サービス終了(2025年6月10日)
- 強化されたCookie削除機能
プライバシー保護機能
- Enhanced Tracking Protection(ETP):2000以上のトラッカーをデフォルトでブロック
- Total Cookie Protection:Cookieを発生元サイトに限定
- SmartBlock:ブロックされたトラッキングスクリプトをローカル代替品で置換
- フィンガープリンティング保護
- DNS over HTTPS
開発者向け機能
- Firefox Developer Edition(開発者向け特別ビルド)
- CSS Grid Inspector(最も高度なグリッドデバッグツール)
- アクセシビリティインスペクター
- レスポンシブデザインモード
- パフォーマンスプロファイラー
4. Safari
基本情報と特徴
- 最新バージョン: Safari 18.5(2025年5月)
- レンダリングエンジン: WebKit
- プラットフォーム: macOS、iOS、iPadOS、visionOS専用
- 統合: Apple エコシステムとの深い統合
性能
- Apple Silicon最適化: M4チップで最大1.8倍の高速マルチタスキング
- バッテリー効率: 業界最高レベルの省電力性能
- JavaScript性能: 一部のベンチマークでChromeに20-30%遅れる場合あり
- 標準準拠: Interop 2024で98%の合格率
強みと弱み
強み:
- Apple デバイス間のシームレスな統合(Handoff、ユニバーサルクリップボード)
- 業界をリードするプライバシー保護(Intelligent Tracking Prevention)
- 優れたバッテリー効率
- iCloud+ のPrivate Relay機能
弱み:
- Appleエコシステム限定(Windows、Linux、Androidで利用不可)
- 拡張機能が少ない(ChromeやFirefoxと比較)
- PWA(Progressive Web App)サポートが限定的
- 開発者向けクロスプラットフォームテストが困難
使用者の特徴
- グローバル市場シェア:約18%(10億ユーザー)
- モバイル:22.89%、デスクトップ:約9%
- 米国では32%のシェア(Chromeの52%に次ぐ)
- クリエイティブプロフェッショナル、プライバシー重視ユーザーに人気
最新アップデート(2024-2025)
- Safari 18.5:macOSでのDeclarative Web Push
- Safari 18.4:84の新機能、CSS shape()関数、P3カラーサポート
- Safari 18.2:クロスドキュメントビュートランジション、WASM ガベージコレクション
- WWDC 2024:Apple Intelligence統合、プロファイルサポート
プライバシー保護機能
- Intelligent Tracking Prevention(ITP):機械学習によるトラッカー分類
- Private Relay:安全なリレー経由のトラフィックルーティング(iCloud+)
- メールを非表示:一時的なメールアドレス生成
- プライバシーレポート:リアルタイムトラッキング防止ダッシュボード
- アンチフィンガープリンティング:デバイス特性の標準化
開発者向け機能
- Web Inspector:レスポンシブデザインモード、パフォーマンスプロファイリング
- Safari Technology Preview:隔週リリースの開発者向けビルド
- リモートデバッグ:macOSからiOSデバイスのワイヤレスデバッグ
- WebExtensions API:Chrome拡張機能との互換性レイヤー
5. Opera
基本情報と特徴
- 最新バージョン: Opera One(Chromium 137.0.7151.56ベース)
- 所有: Golden Brick Capital(2016年より中国資本)
- 主要機能: Aria AI統合、無料VPN、Workspaces、Flow(クロスデバイスファイル共有)
強みと弱み
強み:
- 包括的な内蔵機能でエクステンション不要
- 強力なAI統合(競合他社に先行)
- Opera GXゲーマー向けバージョン
弱み:
- 中国資本によるプライバシー懸念
- 機能過多でカジュアルユーザーには複雑
使用者の特徴
- パワーユーザー、ゲーマー(Opera GX)
- アフリカで7.98%の市場シェア
- 新興市場で人気(Opera Mini)
6. Brave
基本情報と特徴
- 月間アクティブユーザー: 8600万人以上
- 主要機能: 内蔵広告・トラッカーブロック、BAT(Basic Attention Token)報酬システム、Tor統合
強みと弱み
強み:
- 優れたプライバシー保護(デフォルト設定)
- 広告ブロックによる3-6倍の高速ブラウジング
- 革新的な暗号通貨統合
弱み:
- 積極的なブロッキングによるWebサイト互換性問題
- BAT/暗号通貨機能が非技術ユーザーには複雑
使用者の特徴
- プライバシー意識の高いユーザー
- 暗号通貨愛好家
- 技術に精通したユーザー
7. その他の注目ブラウザ
Vivaldi
- 特徴: 極度のカスタマイズ性、内蔵メールクライアント・カレンダー・フィードリーダー
- 対象: パワーユーザー、元Opera(Presto)ユーザー
Arc
- 特徴: 革新的な垂直サイドバーデザイン、Spaces機能、AI統合
- 注意: 2025年に新しいAI中心のブラウザ「Dia」への移行を発表
DuckDuckGo
- 特徴: プライバシーファースト設計、ユーザー追跡なし
- 対象: プライバシーを重視する一般ユーザー
Tor Browser
- 特徴: 最大の匿名性、3層暗号化、.onionサイトへのアクセス
- 対象: ジャーナリスト、活動家、最大限のプライバシーが必要なユーザー
市場動向と今後の展望
主要トレンド
- AI統合: すべての主要ブラウザがAI機能を追加
- プライバシー重視: 主流ユーザーの懸念が高まり採用を促進
- エンタープライズセキュリティ: 専門的なブラウザが従来のVDIソリューションを置き換え
- モバイルファースト: インターネット利用の58%がモバイル
地域別特徴
- 北米: Chrome 51.93%、Safari 31.79%(Appleデバイスの普及により高い)
- アジア太平洋: Chrome 71.34%(最高の地域支配)
- ヨーロッパ: プライバシー規制によりFirefoxやBraveなどの代替ブラウザが比較的強い
- アフリカ: Chrome 75.41%、Opera 7.98%(Operaの強い地域的存在感)
将来予測
2025年のブラウザ市場は、Chromeが支配的地位を維持しながらも、プライバシー、AI統合、エンタープライズセキュリティの分野で重要な変化が起きています。各ブラウザは独自のニッチを見つけており、ユーザーのニーズに応じた選択肢が増えています。プライバシー規制の強化とビッグテックへの懐疑的な見方の高まりは、代替ブラウザの継続的な成長を支えていますが、一般ユーザーにとってChromeの優位性は依然として揺るぎないものです。